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金融機関の貸出金と国債


更新日:2011年11月15日(火)

※このコラムも前回のコラムに続き、増え続ける日本国債のネタです。

日本の国債残高は増え続ける一方でこのままいけば、国家破たんを起こすのではないか,
と一部の人に言われてたりしています。表向きは危険性のあるように見える日本国債なんですが、この日本国債を発行し続けられる根拠となっているのが、私たちの金融資産です。


国債を発行し続けられる理由が、私たちの金融資産にある事は、だいぶ前から言われていたことなのですが、私たちは預貯金をしている意識はあっても、国債を購入している意識はまったくもってありませんでした。

それもそのはずで、実際に買いつけているのは、銀行や郵貯、保険会社といった金融機関だからです。
これらの金融機関は、私たちが預けたお金を使って国債を買っています。

下の図は金融機関の「貸出金」と「株式以外の証券(公社債等)」の金額の推移です。



<貸出金の推移>
「貸出金」とは、金融機関が企業等に貸し付けているお金です。日本経済が順調に成長しているのであれば、銀行の資産のうち、この貸出金の金額が増えていくことになります。

企業に貸し出されたお金は設備投資に回され、国民の生活を豊かにする製品やサービスの提供が行われます。そうして得た利益を、企業は給料をUPして労働者(国民)に支払います。労働者の給料はどこに行くかと言うと、金融機関の預貯金へと流れます(ぐるっと一周します。)。これが日本の一般的なお金の流れです。(個人的に意識してほしいなぁと思う箇所は、「国民の生活を豊かにしたうえで金融機関へとお金が戻っている点。」です。経済をゼロサムゲームにしない状態、win-winの状態に持っていくことも可能です。)

図を見てみますと、1992年あたりから伸びが鈍化していますが、それまではスーッと美しい曲線を描いているのがわかります。この頃までは経済が上手く回っていた時代です。(ただ急激に伸びすぎているとも取れますし、これがバブルなんですね。)

そして、1998年を境に萎んでいっているのがわかります。
1998年に何があったかというと、経緯はその前年の1997年にさかのぼるのですが、消費税の税率アップ、財政支出の削減等をはじめとした緊縮財政が行われました。その結果、景気は落ち込み、経営を圧迫された多くの企業が倒産に追い込まれました。

「貸出金」が減少しているのも、緊縮財政による景気の冷え込みが大きいと考えられます。
企業が倒産すれば、まず貸し付ける対象がいなくなりますので、ダイレクトに「貸出金」の減少要因となります。
また、企業が倒産すれば、それだけ雇用が失われるわけで、失業者のぶんだけ消費が減少します。すると企業は製品をつくっても売れなくなるので、製品をつくるための設備にお金をかけなくなります(設備投資の減少)。その結果、銀行からの資金調達は必要なくなります。これも「貸出金」の減少圧力となります。
それ以外にも、企業が平成不動産バブル時にたらふく抱え込んだ債務を、一生懸命、返済していた時期ということも要因としてあげられます。銀行の貸し渋り(不良債権化を怖がって、、)ももちろんありえますね。
これらの影響で、貸出金を減らす圧力が高まりました。


金融機関は「貸出金」を増やし、そこから得られる利息を収益の要としています、それが緊縮財政によって減少へと転じてしまいました。貸出金の返済が進めば、金融機関に返済されたお金がたまっていくことになります。そして、これらを運用しなければ、資金の貸し手である私たちに預金の利息を支払えません。

そこで金融機関はどうしたのかというと、、、<株式以外の証券>に続きます。

(※前回のコラムで1998年を境に日本の経済構造は何かがおかしくなったと書きましたが、様々なデータを見れば見るほどこの頃から何か歯車がうまく噛み合っていないような気がしてなりません。これがデフレというものなのでしょうか。)



<株式以外の証券>
そして、図の中のもうひとつの指標、「株式以外の証券」を見てみます。
「株式以外の証券」とは、銀行が保有する資産のうち、公社債等の証券と考えてよろしいかと思います。少し大雑把すぎますが、このコラムではこれを「日本の公社債等(国債・地方債)」とみなすことで検証していってます。(実際は、国債・地方債・社債などの債券が含まれてます、ただ割合として国債・地方債の金額が大きいです。)

グラフを見ると、一貫して伸び続けています。
1998年で貸出金の減少が起こった翌年には、わずかながら伸びが加速しています。これは緊縮財政の景気に与える影響が大きかったため、日本政府(小渕首相)が翌年にあわてて公共投資を増やしたことによるものです。


金融機関は国債を買っていきました。
貸し付ける対象がないところに、公共投資のための国債が発行されたため、国債に投資したのです。お金を遊ばせておくよりはマシです。

ただし、その頃の国債の利回りは10年物で2%を切っていました(1.732%:1999年)ので、金融機関としてもそれほど旨味のある運用先とは言えません。できれば企業に貸し出して、もう少し高い利率で稼ぎたいと思うのが普通ですが、これも違うようです。


下図は銀行の貸出金利率と国債利回りの推移を表したものです。



確かに、企業に貸し出す利率(都市銀行貸出金利率)は、国債利回りを上回ってはいますが、それでも0.数パーセントの違いです。不況の真っただ中でしたので、貸し出す先もなかったようですね、上でも書きましたが、全体的に貸出金の減少圧力が大きかったことがポイントかもしれません。




<まとめ>
長々と書きすぎましたが、何が言いたかったのかというと、「金融機関の運用先に変化(貸出金⇒国債)が起こった。」こと、そしてその原因はどうやら、「1998年の緊縮財政に伴う日本経済の構造の変化によるもの。」にあるという事です。

1998年の緊縮財政が、金融機関の「貸出金⇒国債」への流れをつくり、日本の国債を増加させたというのが現時点での結論です。(もう少し多角的な分析も今後加えていきます。)

金融機関側から見ると、まるで金融機関側に国債増加の責任があるかのごとく見えますが、

これを日本政府から見ると、緊縮財政で大幅に減った需要を埋めるために国債を発行し、公共投資で需要を穴埋めしようとした。一方で、金融機関では需要が先細ったがゆえに貸出金の返済が進み、金余りが生じていた。結果、お互いがお互いを利用した。

金融機関(供給)⇒運用難による金余りを国債でカバーしようとした。
日本政府(需要)⇒需要減小を国債発行&公共投資で需要を穴埋めしようとした。


この構図ならば、なんとか一時的にお金は回るけれども、、、、日本政府が意味のあるもの(経済をより活性化するもの)にお金を使わなければ、ぐるっと一回転して終わりです。その影響でしょうか、政府の借金が増えると、家計・企業の金融資産は少しだけ増えてます。(一部はどっか国外に漏れてますね^^;)

日本の経済構造が変わったのは1998年で間違いなさそうです。(もっと言えばその前のバブル。)
この頃から低金利の時代をまい進し、浮上するきっかけをなかなか与えてくれなくなりました。
いや、、、逆に1998年までとはまったく違った、新しい経済構造の時代に突入した。
そう理解するようにしています。



<補足1>
アメリカがまさにこの状態に陥っていると見ています。ただアメリカの場合は、金融機関にお金はないため、まずFRBがお金をじゃぶじゃぶ金融機関に供給(量的緩和)して、金融機関はそのお金でアメリカ国債を買ってました。それでも、なかなか経済が回復してこない(日本と同じでぐるっと一回転したのだろうか。)ので、2010年11月にじゃぶじゃぶ流すお金をさらに増やしたんです、OE2って言われてます。この効果が出てきているのかわかりませんが、少しずつ景気が上向きつつあるように思います。いまだバーナンキは検証中ですが、もう一発いく可能性は大きいです。


<補足2>
欧州も実はこれに陥っていると言いたいのですが、欧州はこれよりもう少し酷くて、金融機関にお金もなければ、FRBのようにお金をじゃぶじゃぶ供給する機関もありません。欧州のFRBに該当するECBというものはあるのですが、これはユーロ全体のものであるため、例えば、ギリシャのためにとかイタリアのためにとか、ホイホイとお金をじゃぶじゃぶ供給できるわけではないんです。根本的にお金が出せない体制になってしまってるんです。こんな状態で、EUは緊縮財政をやろうとしてるのだから、先行きは良くないと見ざるを得ません。


注:ここでの考察は限られた情報の中で行っております。様々な情報を多角的に分析することで、また違った見方も出来てくると思います。新しい情報をインプットし、分析結果が変わるごとに更新される予定ですのでたまに見に来てください。(更新情報に再更新と表示されます☆)





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